ζ(゚ー゚*ζうみにねこが鳴くころにのようです
38 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:17:39
ID:eMc2Oz3Y0
夏休みが始まり、そろそろ日記に書く事がなくなって来る頃、私はこの海を訪れる。
家から徒歩30分、自転車で40分という一見不思議そうで、ただ山を突っ切る分、徒歩の方が速いだけの所。
山を抜け、一見何の変哲もない静かな海を眼下に臨み、私は両手を広げて砂浜に飛び降りた。
ζ(゚ー゚*ζ「とーうちゃーく!」
ザッという軽い素直とを響かせ、よろけることなく着地する。
私はその綺麗に着地に満足し、両手を上げたポーズのまましばらく立ち尽くす。
まあ、誰も見ている人はいないのだけども。
ζ(゚、゚*ζ「なーんて、バカやっててもしょうがないからね」
私は両手を下ろし、まっすぐに波打際に向かって歩く。
海から吹く潮風が、白いワンピースをはためかせた。
ζ(゚、゚*ζ「さーて、もういるかなー?」
波打際にたどり着いた私は、かぶっていた脱ぎわら帽子を左手に抱え、そのまま左手を胸に添えたまま四つん這いになる。
39 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:18:56
ID:eMc2Oz3Y0
ζ(゚、゚*ζ「正しくは三つん這いだけどね」
その辺は些細なことなので、拘らなくてもいいだろう。
私は顔を左に向け、水面に耳を付けた。
ζ(-、-*ζ「……」
目を閉じ、耳を澄ます。
打ち寄せる波の音、コポコポと湧き出す泡の音。
それらの合間を縫って響いてくる、微かな……
ζ(゚ー゚*ζ「いた!」
私は顔を上げ、その勢いのまま立ち上がる。
そして手足についた砂も払わず、波際を岩場の方に向かい走り出した。
ζ(^ー^*ζ「今年もちゃんと来てるね」
思わず浮かぶ笑みを隠すことなく私は走る。
そう遠くもない岩場にはすぐに辿り着いた。
40 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:19:40
ID:eMc2Oz3Y0
ζ(゚ー゚*ζ「おっと、気を付けないとね」
岩場は滑りやすいのだ。
このまま走ろうものなら、転んで大変なことになりかねない。
ζ(゚、゚*ζ「まあ、経験者は語るというやつですが」
小さな頃の過ちだ。
この年で同じことやったら流石に恥ずかしいと思う。
私は足場のあまりよろしくない岩場を歩く。
さっきの砂浜から行っても良かったのだが、こちらからの方が速く着くだろう。
たぶんあっちから行くと、魚の大渋滞に引っかかる。
ζ(゚ー゚*ζ「さてと」
私は、岩場の端、海に面した所に辿り着いた。
下を覗き込めば、澄んだ青に白い泡の花が咲き乱れている。
ζ(>ー<*ζ「れっつごー」
41 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:20:35
ID:eMc2Oz3Y0
私は躊躇うことなく海に身を躍らせる。
着水時に海水が入ると痛いので、目はしっかりと閉じたままで。
風の音と共に、ザブンと大きな音がした様な気がした。
そのまま海中に沈む耳にはそれが本当にはっきりと聞こえたかどうかは定かではない。
脳内で勝手に音を補完してくれたのかもしれない。
ζ(=、=*ζ「むー……」
私はゆっくりと目を開け、海水に慣らす。
ζ(゚ー゚*ζ「よし、オッケー」
ほどなくして海水に慣れた目をしっかりと見開き、前方を見据える。
陽の光を浴びた明るい青が一面に広がるこの風景は、何度見ても見飽きることはない。
ζ(゚ー゚*ζ「どこにいるのかなー」
しばらくその風景を楽しんだ後、私は目的のものを探し始める。
耳を澄まし、わずかに聞こえるそれを頼りに私は歩き出した。
42 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:21:17
ID:eMc2Oz3Y0
ζ(゚ー゚*ζ「どこかなー」
連なって泳ぐ色取り取りの魚の群れに沿うように歩くこと数分、遠くに何やら丸いものが見えて来た。
ζ(゚ー゚*ζ「いた!」
私は嬉しくなり、思わず走り出した。
浮力で跳ねるように進む身体は、すぐにその場所に辿り着く。
ζ(゚д゚*ζ「わー、いっぱいいるねー」
.∧∧
(*゚ー゚)「にぃ?」
ポコりと漏れる泡と共に響いた私の声に、一斉に白く丸いもの達がこちらを振り向く。
ふさふさの毛並み、すらりと長く伸びた尻尾、丸まった背、ピンと立った耳、ツンツンしたヒゲ。
.∧∧
(*゚ー゚)「にぃ」
43 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:22:38
ID:eMc2Oz3Y0
白いもの達の一匹が、どこからどう見ても猫そのものの顔でもう一度鳴いた。
この子達は猫なのだから、そんな顔なのは当たり前なのだけど。
.∧∧
(*゚ー゚)「にぃ」
その子はしばらく私を見つめた後、また一声鳴いて私から視線をそむけ、元のように丸くなった。
ζ(゚ー゚*ζ「相変わらずだねー」
もっと警戒しろよと思わなくもないが、この子達は大体こんなもんだ。
何というかのんきなのだ。
それだけこの海が静かで平和であるってこともあるんだけどね。
ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりだねー、元気してた?」
.∧∧
(*゚ー゚)「にぃ」
私の問いかけに、一匹の子が首をかしげるような仕草をみせて鳴く。
44 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:23:59
ID:eMc2Oz3Y0
もちろん猫なのだから、私の言葉がわかるはずはないのだけど。
同時に私も、この子が去年もここにいた子なのかどうかわからないし、当然の如く何を言っているのかもわからないから
おあいこだろう。
ζ(^ー^*ζ「んー、ふさふさー」
.
∧∧
(*´ー`)「にぃー」
私は一匹の子に手を伸ばし、その頭をやさしく撫でた。
その子は嫌がる素振りは見せず、ゴロゴロと喉を鳴らしてされるがままに目を細める。
ζ(^ー^*ζ「よしよし」
.
∧∧
(*´ー`)「にぃー」
ひとしきりその柔らかな感触を楽しみ、別の子の元に移動する。
それを何度も繰り返し、私は海中での一時をこの子達、うみねこ達と楽しんだ。
45 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:25:21
ID:eMc2Oz3Y0
うみねこといっても、それは便宜上の呼び方だ。
当然、鳥のそれとは違う。
この子達はただの猫なのだから、正しい名前で呼ぶなら猫としか呼びようがない。
ただ私が海の中にいる猫達をうみねこと呼んでいるだけなのだ。
じゃあ、何故海の中に猫がいるのかと疑問に思う人がいるかもしれない。
その答えも簡単なことだ。
ζ(゚ー゚*ζ「涼しいもんね、ここ」
.
∧∧
(*´ー`)「にぃー」
私の言葉をわかったわけではないのだろうが、頭を撫でられていた子が同意を示すように鳴いてくれた。
そうなのだ、この子達は涼しいからここにいるだけだ。
猫が夏は涼しい場所、冬は暖かい場所に陣取ることは別に不思議でもなんでもないだろう。
涼しい場所がたまたま海の中であっただけだ。
46 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:26:32
ID:eMc2Oz3Y0
ζ(>ー<*ζ「んー……」
一通りのうみねこ達の頭を撫で終わり、私は大きく伸びをする。
なんだかんだで結構な時間をここで過ごした。
いくら私が素潜りが得意でも、そろそろ一旦上がらないとまずいだろう。
お肌もふやけてしまう。
ζ(゚ー゚*ζ「んじゃ、また……お?」
うみねこ達に手を振り、帰ろうかとした矢先に、何かが視界の端で動いたように見えた。
ζ(゚、゚*ζ「んー? 何だろ?」
右手の方、うみねこたちが集まっている所と少し離れた岩場の方、その陰に何か白いものがあったような……
ζ(゚、゚*ζ「お?」
48 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:27:13
ID:eMc2Oz3Y0
∩
∩
( ^ω^)「ぶみ?」
_,
ζ(゚ー゚*ζ「おおう!?」
岩場の方に向かい、その陰から覗き込むように下を見ると、そこには一匹のうみねこらしきものがいた。
らしきもの、という言い方をしたのは、そのうみねこが他のうみねことだいぶ異なる姿形をしていたからだ。
ζ(゚、゚*ζ「うみねこ……だよね?」
∩
∩
( ^ω^)「ぶみ?」
他のうみねこ達より一回り大きく、何というか一際丸い感じを受けるその子は、再び短く鳴いた。
ζ(゚ー゚*ζ「うみねこ……でいいのかな」
私はそれを恐らくうみねこであろうと納得して、その子の頭に手を伸ばす。
49 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:28:14
ID:eMc2Oz3Y0
ζ(゚ー゚*ζ「ほーれほれ」
∩
∩
(*´ω`)「ぶーみー」
他のうみねこ達とは若干違う独特な鳴き方をするこの子も、頭を撫でられるのは好きなようだ。
喉を鳴らし、気持ちよさそうに目を細める。
ζ(゚ー゚*ζ「んー、やっぱうみねこだよね、デブっちょだけど」
∩
∩
(*´ω`)「ぶーみー」
ζ(゚、゚*ζ「でも、何でこんなとこに一人でいるのかなー?」
ひょっとしてこの、他とは一風変わった姿のため、苛められでもしてるのだろうか。
少し心配になったが、うみねこ達はそんなことをする子じゃないと思い直す。
50 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:29:22
ID:eMc2Oz3Y0
ζ(゚、゚*ζ「めんどくさがりだからねー、そんなことしないっしょ」
∩
∩
(*´ω`)「ぶみ?」
ζ(゚、゚*ζ「となると……」
私は岩場の周囲を見回す。
相変わらず、色取り取りの魚の群れが流れるように連なる。
ζ(゚ー゚*ζ「お魚さんがすぐ取れるようにかな?」
∩
∩
(;
´ω`)「ぶみー」
私はぽよんぽよんのお腹を指で突付く。
デブっちょ君は少し困ったような鳴き方をした。
お腹を突付かれるのは好きじゃないからだろうけど、それが私の言葉に図星を指された反応のようにも見えたので、
なんだかおかしかった。
51 :以下、名無しにかわりましてブーンがお送りします:2010/05/04(火) 04:30:26
ID:eMc2Oz3Y0
ζ(^ー^*ζ「今度来る時は、お魚持って来てあげるね」
∩
∩
(*^ω^)「ぶみ!」
私の言葉に、デブっちょ君が一際嬉しそうな顔をしたように見えたのは、私の見間違いだろうか。
ζ(゚ー゚*ζ「見間違いじゃないかもね」
猫達が海の中で暮らせるようになったのだ。
いつしかうみねこ達が私の言葉をわかる日が来ても、何の不思議もないだろう。
ζ(^ー^*ζ「その時は、いっぱいお話しようね」
∩
∩
(*^ω^)「ぶみ!」
そう言って笑いかけた私に、デブっちょ君はにこやかに微笑み返してくれた。
おわり
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